印鑑の書き出しは SVG と PNG どちら?
同じ印影データが、同じ日の午後に二つのまったく違う場所へ行くことがあります。総務の担当者は Excel の請求書テンプレートに貼れるファイルがほしい。浸透印(シャチハタのようなスタンプ)を作る印章店からは「画像ではなく、ベクターデータでお願いします」と返信が来る。どちらももっともな依頼ですが、必要なファイルは違います。
PNG と SVG は、同じものの高画質版と低画質版ではありません。印影を保存する仕組みがそもそも違い、それぞれ決まった場所でつまずきます。つまずく場所を先に知っておけば、書き出し直しも、印章店との行き違いも減らせます。
それぞれのファイルの中身
PNG はピクセルの格子です。 一つひとつのピクセルが色と、印鑑にとって大事な「不透明度」を持っています。輪の外側のピクセルを完全に透明にできるから、PNG は背景を透過できます。どのアプリで開いても見た目は同じで、解釈の余地がありません。その代わり細部の量は固定で、作ったサイズ以上に拡大すると輪郭がぼやけたりギザギザになったりします。
SVG は描画の指示書です。 「半径いくつの円」「星形のパス」「このフォントでこの弧に沿って並ぶ文字」といった情報を持ち、開いたソフトが必要なサイズでその場で描き直します。だからサムネイルから大判まで鮮明です。Illustrator、Inkscape、Affinity、Figma で色を変えたり要素を動かしたりもできます。
この二つめの性質は、両刃の剣です。
PNG が向いている場面
普通の文書に入れるなら、ほぼ PNG が基本です。
- Office ソフト。 Word、Excel、PowerPoint は PNG をそのまま受け付けます。新しいバージョンには SVG 対応もありますが、会社の古い環境ではうまく扱えないことがあります。請求書や見積書を Excel で作る会社が多い日本では、特に PNG が無難です。
- アップロード欄。 電子契約サービスや各種オンライン申請で印影画像を求められる場合、ほとんどが PNG か JPG で、容量制限もあります。SVG は受け付けないことが多いです。
- メールやチャット。 PNG はどこでもそのまま表示されます。SVG の添付は相手がプレビューできないことがあります。
- 見た目が安定する。 相手のパソコンで違って見えることがありません。フォントの置き換えも起きません。
- 透過がそのまま使える。 背景が透明な PNG を記名欄に重ねれば、思ったとおりに収まります。書き出し方と確認方法は背景が透明な PNG 印鑑の作り方で解説しています。
PNG で押さえるべきはピクセル数だけです。紙の上や画面でどのくらいの大きさにするかを決めてから、その大きさに足りるピクセル数で書き出してください。計算は印鑑のサイズと解像度ガイドにあります。
SVG が向いている場面
印影を「製作」したり、拡大縮小したり、手直ししたりするときに SVG が生きます。
- 印章・スタンプの製作、レーザー彫刻。 ゴム印、浸透印、エンボッサー、レーザー彫刻の業者は、たいていベクターデータ(SVG、PDF、AI、EPS など)を求めます。彫るための輪郭が必要で、なぞり直さなければならないピクセル画像では困るのです。
- 本格的な印刷。 印刷会社に出す賞状、看板、パッケージ、特色印刷では、ベクターのほうが機器の解像度をフルに生かせます。
- 後で直す可能性がある。 下の文字を差し替える、色を変える、輪を別のレイアウトに流用するといった場合、SVG があれば作り直さずに済みます。
- 一つのデータから複数サイズ。 ウェブ、レターヘッド、銘板に同じ印を使うなら、SVG をマスターにして必要な PNG を書き出すのが効率的です。
なお、法務局に届け出る会社実印や、自治体に登録する個人の実印は、最終的には印章店が彫った実物の印鑑そのものです。手元の SVG はデザインの参考資料であり、登録された印鑑の代わりにはなりません。
SVG の落とし穴:フォント
多くの人が驚くのがここです。本サイトの印鑑ジェネレーターを含め、多くの SVG 書き出しでは、外周の文字が描かれた輪郭ではなくフォント名つきの文字として保存されています。フォントが入っている自分のパソコンでは完璧に見えても、印章店のパソコンにそのフォントがなければ、ソフトは黙って別のフォントに置き換えます。書体が変わり、字間がずれ、輪に沿わなくなることもあります。
確実な対処法は二つです。
- 送る前に文字をアウトライン化する。 正しく表示される環境で、Illustrator(書式 › アウトラインを作成)や Inkscape(パス › オブジェクトをパスへ)などを使って文字をパスに変換し、別名で保存します。アウトライン化した文字は文字として編集できなくなるので、元のファイルも残しておきます。
- PDF を一緒に送る。 印影の実寸で出力した PDF があれば、相手は仕上がりの見本として照合できます。ジェネレーターは印影を実寸で配置した 1 ページの PDF を書き出せるので、その用途にぴったりです。
どちらの場合も「PDF が仕上がり見本、SVG はアウトライン化済みの製作用データです」と一言添えれば、行き違いのほとんどは防げます。
PNG の落とし穴:小さすぎる、知らないうちに JPG になる
PNG の失敗は地味ですが、頻度は高めです。
- ピクセルが足りない。 幅 300 ピクセルの PNG を紙の上で 40 mm に引き伸ばせば、印刷はぼやけます。後から拡大せず、必要なサイズで書き出してください。
- いつの間にか JPG に変換されている。 アプリやチャット、アップロード先によっては画像が JPG に変換されます。JPG は透過できないので背景が白(または黒)になり、赤い細線のまわりに圧縮ノイズも出ます。LINE で普通に画像として送ると圧縮されるので、元のファイルのまま渡したいときはファイルとして送信してください。印影に急に四角い枠が付いたら、たいていこれが原因です。
- 書き出しの代わりにスクリーンショット。 画面のピクセルと編集画面の背景まで写り込みます。本物の書き出しにはかないません。
JPG、PDF、DOCX は?
- JPG は透過できず、印影は背景色つき(通常は白)になります。白い紙の上で何にも重ならないなら問題ありませんが、署名や色のある部分に重ねるには不向きです。
- 印影だけの PDF は、印章店や印刷会社への見本として、また他の PDF ツールで正確なサイズに配置するときに便利です。
- DOCX に実寸の印影を入れておけば、Word の契約書や送付状にコピーするだけで正しいサイズになります。
どれも PNG か SVG かという判断の代わりにはなりません。その外側の便利な包装です。
早見表
| 印影の行き先 | 書き出すもの | |---|---| | Word、Excel、PowerPoint | 配置サイズに合わせた透過 PNG | | 電子契約・オンライン申請のアップロード | PNG(指定があれば JPG)、容量制限に注意 | | 画面で見る PDF、社内プリンター | 透過 PNG、または PDF 押印ツールで直接押印 | | ゴム印、浸透印、エンボッサー、レーザー彫刻 | 文字をアウトライン化した SVG と見本 PDF | | 本格印刷、看板 | 文字をアウトライン化した SVG | | ウェブやアプリで複数サイズ | マスターの SVG と予備の PNG | | まだ決まっていない | SVG を保管し、必要なときに PNG を書き出す |
両方残し、名前ははっきり
いちばん実用的なのは、マスターを一つ持ち、その横に名前のはっきりした書き出しを少しだけ置く方法です。元の SVG、製作用にアウトライン化した SVG、よく使うサイズの PNG を一、二枚。角印_最終_修正3_新.png のようなファイル名こそ、半年後に古い版が契約書に紛れ込む原因です。印影ファイル管理ガイドに、長く使える命名の仕方をまとめています。
印鑑ジェネレーターでは、PNG と JPG のダウンロードは誰でも利用でき、薄い透かしが入ります。高解像度 PNG と SVG の書き出しは Pro プランの機能です。何を書き出すにせよ、送る前に実際に使う場所で確認してください。ファイルが決まれば、最後は印鑑を PDF や Word 文書に追加するだけです。