電子印鑑と電子署名の違いとは?
取引先のポータルに「電子印鑑を登録してください」とある。情報システム部は「うちはもう電子契約サービスを使っている」と言い、経理は角印の PNG を持っている。法務は「電子証明書」の話をしている。四人とも別のものの話をしていて、しかも同じような言葉を使っています。
実際、それらは同じではありません。「電子印鑑」「電子署名」「デジタル署名」は重なり合いながら、それぞれ別の意味を持ち、国によってはそのうち一つが厳密な法律用語です。書類に本当に必要なのがどれかを知っておけば、足りない対応(証拠が必要な場面で画像だけを送る)も、やりすぎ(誰も争わない見積書のために証明書を取る)も避けられます。
この記事は一般的な情報であり、法的助言ではありません。要件は国、書類、当事者によって異なります。重要な場面では専門家に相談してください。
同じ言葉で呼ばれる四つのもの
日常会話で「電子印鑑」と言うとき、指しているのはたいてい次のいずれかです。
- 印影の画像。 透過 PNG などの印影の絵を書類に置いたもの。いわゆる「電子印鑑作成ツール」の多く、このサイトも含めて、作れるのはこれです。見た目の印にすぎません。
- 電子署名。 電子文書に付され、作成者を示し、内容が改変されていないことを確かめられるようにする措置の総称です。電子契約サービスでのクリック署名なども、仕組み次第でここに入ります。
- デジタル署名。 具体的な技術です。公開鍵暗号を使い、多くは認証局が発行した電子証明書に裏づけられます。文書と署名者の鍵を数学的に結びつけ、署名後の変更があれば検出できます。
- e シール(組織の電子的な印)。 個人ではなく組織が発行元であることを示す仕組みです。請求書や証明書を組織として発行するときに使います。
混乱の原因は、1 と 4 を同じものだと思ってしまうことです。呼び名は似ていても、中身はほとんど別物です。
日本:電子署名法と「押印の推定」
日本の電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)は、本人による一定の電子署名が行われている電子文書について、真正に成立したものと推定すると定めています(第 3 条)。紙の世界で、本人の印鑑による押印があれば真正に成立したと推定される、という考え方の電子版です。
ここで大事なのは、推定が働くのは「本人だけが行える」電子署名であって、印影の画像を貼っただけでは足りないことです。画像は誰でもコピーでき、貼った後で文書を変えても分かりません。
一方で、会社が発行元であることを示す仕組みとして、総務省は組織の電子的な印である e シールについて、信頼性を確保するための制度整備を進めています。電子インボイスや各種証明書のように、特定の個人ではなく会社として大量に発行する書類では、この考え方が重要になります。
EU:e シールは厳密な法律用語
EU の eIDAS 規則は、電子シール(electronic seal)を、他の電子データに付され、その発行元と完全性を確保するための電子データと定義しています。電子署名との違いは、作成者が自然人ではなく法人であることです。署名は個人の意思表示、シールは「この文書はこの組織から出たもので、その後変更されていない」という表明です。どちらも単純・高度・適格の三段階があり、適格電子シールには完全性と発行元の正しさについての法的推定が与えられます。
日本の「代表者印は会社の意思、角印は会社の発行」という使い分けに、どこか似ています。違うのは、eIDAS の電子シールは目に見える印影を持たなくてもよいことです。逆に、どれほど本物らしい印影画像でも、eIDAS の意味での電子シールではありません。
デジタル署名:裏側の仕組み
信頼できる電子署名や e シールは、たいていデジタル署名で実装されています。署名ソフトは文書の「指紋」(ハッシュ値)を計算し、署名者の秘密鍵で暗号化します。対応する公開鍵(通常は電子証明書に含まれる)を持つ人なら誰でも、署名がその鍵で作られたことと、署名後に文書が変わっていないことを確かめられます。
PDF リーダーでは署名パネルに表れます。正しく署名された PDF は「署名済みですべての署名が有効です」のような表示と証明書の持ち主を示し、署名後に変更があれば警告します。印影画像を置いただけの PDF では、署名パネルには何もありません。検証できるものがないからです。
ほかの印章文化では
- 中国本土。 電子署名法が、信頼できる電子署名は手書きの署名や押印と同等の効力を持つと定め、会社の電子印章は認証されたプラットフォームで作成・管理されます。中国の電子印章を参照してください。
- 韓国。 2020 年の電子署名法全面改正で旧「公認認証書」の特別な地位がなくなり、多様な署名手段が使えるようになりました。韓国の印鑑と電子署名で解説しています。
どの国でも、完成した書類には見慣れた朱色の印影がよく表示されます。しかし正しく署名された書類では、それは暗号技術による署名の「顔」にすぎず、書類に効力を与えているのはその裏側です。日本の事情は日本の印鑑と電子印鑑にもまとめています。
手元の PDF がどれなのか見分ける
- 署名パネルを開く。 Adobe Acrobat Reader など署名を表示できるリーダーで、有効な署名と証明書の持ち主が表示されれば、デジタル署名付きです。
- 印影をクリックする。 選択して動かせる画像や注釈で、裏に署名がなければ、それは画像です。
- 締結証明を見る。 電子契約サービスは、署名者・日時・認証方法を記した証明書を添付したりリンクしたりするのが普通です。
- 迷ったら送り主に聞く。
実際に必要なのはどれか
- メールでやり取りする見積書や送付状: 印影画像か簡単な電子署名で十分なことが多い。
- 後で権利を主張する可能性がある契約: 締結記録の残る電子契約サービスでの電子署名。
- 法令で方式が定められた書類や官公庁への提出: まず規定を確認。電子証明書による署名、届出印と印鑑証明書、紙の原本が必要な場合があります。
- 会社として大量に発行する証明書や請求書: 担当者が画像を貼るのではなく、組織として署名・シールを付す仕組み。
- ポータルの「電子印鑑を登録」: 説明をよく読む。表示用の画像を求めている場合と、証明書を求めている場合があります。
画像にできること・できないことは印鑑の画像に法的効力はあるか?で詳しく扱っています。
印影画像の居場所
これは印影画像が無意味だという話ではありません。多くの電子契約サービスでは、組織の印影画像を署名の見た目として登録できます。朱色の印を期待する読み手には見慣れた姿を見せ、法的な働きは裏側の暗号技術が担います。そうしたサービスが求めるのは、まさにきれいで、透過で、サイズの合った画像です。
印鑑ジェネレーターの役割もそこにあります。デザインの検討、書類の見本、日常のやり取り、そして正式な署名手続きの中の「見た目」として印影を作ります。本人確認は行わず、デジタル署名も作りません。見た目はここで、法的な効力は適切な署名サービスで用意してください。